1993年

2015/01/14

大原まり子「ハイブリッド・チャイルド」 



多分十数年ぶりに再読しました。ラストシーン手前のカタストロフは強く印象に残っていたのですが、それ以外も含め今もかなり新鮮に読める内容だと思います。

人類と機械が長く戦いを繰り広げる宇宙で、人類側は切り札として、どのような状況下にあっても死ななず、周辺のあらゆるものへと変化する力を持つ、核融合の心臓を持つ子供=ハイブリッド・チャイルドを十数体作り戦場に投入するのですが、そのうち一体だけが逃亡してしまい、軍から追われることになります。この一体が主人公なのですが。

最初は「彼」だった物は、哀れな少女の細胞をサンプリングすることでその精神そのものも彼女になってしまい、物語の大半はこの「少女」の冒険と逃亡を描くものとなっています。

あらゆる状況下において無垢な少女の心を基盤に、生物や無生物に変転していくその者は、やがてある惑星に到着し、彼女に決定的な影響を及ぼす人々、そして狂ってしまった偉大なる母=惑星統括のコンピュータに遭遇します。

その惑星は既に滅亡の途に就いていたのですが、少女の行動と運命が決定的な滅びをもたらすことになってしまいます。ブラッド・ミュージックや、新しいもので言えばエヴァンゲリオン旧劇場版のようなものを想像すればよいでしょう。

終焉への有り様も徹底的に表現される一方で、この物語が延々と紡ぐのは母と子の関係。それは決して幸せなものではないのですが、生物として精神として、母子が繰り返し産み、生まれ、殺しては愛するその繰り返しが宇宙そのものと同一化したような世界を見ることが出来ると思います。サイケデリックでグロテスクな美しさといえるのではないでしょうか。

なお、文庫の加藤洋之&後藤啓介のイラストが素晴らしいので、kindle版のイラストは内容をより端的に表してはいるものの、想像力を掻き立てるものではないことを書いておきます。

teamlink_oka at 22:24|PermalinkComments(0)TrackBack(0)