音楽

2014/11/24

宇多田ヒカル「Beautiful World」

言わずと知れた、ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序の主題歌ですね。この歌、僕はものすごく好きなのですが(旧作の高橋洋子の一連の歌と比肩するぐらいだと思っています)、理由はその完璧なまでの空虚さにあります。

歌詞を書くことが出来ないので正確な引用はできませんが、この曲の歌詞はとても変わっていて、語っているのが男なのか女なのか判らない。しかも、一行ごとに語り手が変わっているようにも聞こえるわけです。

自分でも何をしゃべっているのかよく解らないんだけど感情が躁鬱を繰り返して、気分にムラがあるのが当然だと語ってしまう。目の前に対象の人物がいるのかいないのかすらも判らない。その自分/他人を取り巻くのはただひたすらに美しいだけの世界。

これは新劇場版という作品そのもので、語るものがなくても語られなければ存在し得ない世界はめちゃくちゃに美しい。その張り詰めた美しさを象徴するのが反復されるピアノのフレーズになっています。

かつて作品は他人によって語られて神話となりましたが、現在の作品は語られなければ存在すら許されない。透明になって砕かれないために、自分には何もなくても語られるべき神話はあるよと主張することが義務だとされるようになっていると思います。

来年は2015年、TV版エヴァの作品内で設定された年です。使徒が現れはしませんが、街の至るところで年中エヴァを見かける世界になりました。こんなに美しい世界に囲まれただれでもないだれかは多分今も、だれかのそばでただ目を閉じていたいと願っているのでしょう。

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2014/11/20

鷺巣詩郎「ガーゼィの翼・オリジナルサウンドトラック」

エヴァンゲリオンの楽曲で著名な鷺巣詩郎が、TV版エヴァとほぼ同時期に手がけていたサウンドトラックというだけで気になるところに、そのタイトルが富野由悠季のバイストン・ウェル・サーガの一つだといえば話を聞きたい人もいるんじゃないでしょうか。

折しも90年代中期、RPGもライトノベルも、右を向いても左を向いてもファンタジーだった時代。この作品、ダンバインに似た世界ながらオーラバトラーは登場せず、生臭い人と人の戦いを描いたアニメだったわけですが。

Vガンダム後で病んでいたと言われる富野監督の作品で、重度の富野ファンからも黒歴史認定されてるOVAなんですよねこれ。僕は好きだったんですが、クオリティが今ひとつなのも事実。

ただ、極めて肉体的なファンタジー世界の映像と、ロンドンでレコーディングされたという楽曲はとにかくマッチしていて今でも時折聴き返すぐらいなのです。

エヴァの庵野秀明が作曲を発注する際、「こういうのを作って」とすでにある曲を持ってくるという逸話(田中公平談)があり、エヴァの楽曲はどれもどこかで聞いたことのあるような外連味の効いたものが多いのですが、こちらは一曲ごとは短いものの、シーンの情景をそのまま音にするかのような造りで想像力を沸き立てます。

特に、戦闘シーンで印象的に使われる楽曲「戦闘開始」「激戦の果てに」は耳に残る曲です。90年代のロック・ポップスの明るさ・空虚さが溢れる主題歌「Wings of my heart」を含め、世紀末に待望された異世界への扉を感じる一枚です。

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2014/11/17

浜口史郎、他「ガールズ&パンツァー オリジナルサウンドトラック」

女子高生が戦車を使って競技を行う架空の武道「戦車道」。長らく伝統が絶えていた茨城県立大洗女子学園を舞台に、少女たちが0からの戦車道全国優勝を目指すアニメ「ガールズ&パンツァー」の、サウンドトラックのお話です。

奇想天外な設定とベタな熱血ストーリー+萌えという合わせ技で2013年春頃にオタクの話題をかっさらったこの作品ですが、音楽もすごく良いです。他の方も指摘されている通り、古き大作戦争映画で流れていたような軽快勇壮なマーチが繰り返し流れます。

楽曲はおおまかに数パターンのテーマをアレンジしたものが中心で、そのメロディは覚えやすく折につけて脳裏に再生されることでしょう。一方でアニメの劇伴としても過不足なく楽しめます。

曲は物語の始まりから日常、葛藤、戦闘シーン、その解決と大団円までが順序良く並べられて、CD一枚で物語を反芻することも出来る一方、Disk2には各国のマーチをガルパン風にアレンジした曲が収録されています。

それらはどこかで一度は聞いたことのある曲ばかりで、声優さんの声が可愛い「カチューシャ」は特筆すべき物があり。またアニメ監督が自ら書き下ろした「あんこう音頭」の奇天烈さも、一度聴いたら忘れられないインパクトです。

一時期は品切れ続出だったこのCD、アニメを知っていれば場面の折々で感動を思い出すこと必死ですが、知らなくても頭に残るメロディは聴いていて元気になれること請け合いです。個人的にはやはり、この世界すべてを象徴する「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」が一番好きですね。

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2014/11/15

HMOとかの中の人。(PAw Laboratory.) 「増殖気味 X≒MULTIPLIES」

初音ミクでYMOをカバーしてスマッシュヒットした前作「Hatsune Miku Orchestra」に関しては、Amazonにてレビューを書いているのでそちらを読んでいただければと思います。結構頑張って書いている予感。

今回は一枚まるごと大体YMOのアルバム「増殖」のパロディで、曲の間にコントが入るのも一緒。原作はスネークマンショーでしたが、今回の脚本を書いているのは尻Pこと野尻抱介。ねちっこくマニアックな仕上がりです。

楽曲のクオリティは前作以上に作りこんでいるのは間違いないのですが、前作ほどデジタルミュージック感が消えているので好き嫌いはあるかと。ギターとして大林憲司の息子さんの大村真司が参加しているというのもYMOオタ的には感涙モノです。

一方で、コントや楽曲に初音ミクだけではなく、藤田咲や浅川悠など、いわゆる中の人を起用しているという点で、「ミクカバー」という看板とは違うと思う人もいることは容易に想像できます。

それでも、とにかく数多くあり、とにかくクオリティの高低に注文がつくYMOカバーの中にあっては安定して聞けるという評価は揺るがないでしょう。前作でYMO三人に直接許可をとったというのは伊達ではありません。

個人的には「TIGHTEN UP」の軽快さが最高に好きです。 あとは、急逝したゲームクリエイター・飯野賢治が「Taiso」カバーのピアノを弾いているという点も忘れられません。彼もまた、熱狂的なYMOフォロアーだったんですよね。

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2014/11/07

fennesz + sakamoto「cendre」

坂本龍一と、オーストリアのエレクトロニカ・アーティストであるクリスチャン・フェネスによるユニットのアルバムで、ノイジーなエレクトロニカと、坂本のピアノを組み合わせた環境音楽という感じのCDなのですが、一時期毎日のように聴いてました。

音楽を聞く方法としては邪道だと思うのですが、ノイズキャンセル付きのウォークマンで雑音を遮断してこれを流していると、目の前で掘削機が工事をやっていても読書に集中できるという優れ物です。

実際、頭を使う作業をするのにこれ以上の環境はないという感じになるので是非試してみたらいいと思うのですが、体感には個人差があり云々というやつで保証まではいたしません。

音楽としては、まずエレクトロニカというのが結局一過性のシーンのものだったという現状の評価がある上、ものすごくミニマムな体験なので、とても聴いてられないという人は少なからずいると思います(僕もovalを最初に聴いた時はそんな感じでした)。

また、教授のピアノもほとんどメロディになっておらず、ピアノと聴いて期待できるようなものは聴けないと思って間違いないと思います。このユニットの続編であるアルバム・fluminaではさらに解体が進んでいて、手抜きに感じてしまう危険性もあるかと。

それでも聴きこんでくると全編である程度の作品の流れが掴めてくるので人間の脳というのは面白いですね。曲のタイトルすら情報量が乏しいこのCDも、僕のようにマストな一枚になる人がどこかにいるかもと思い紹介しました。

teamlink_oka at 23:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)