2015/01

2015/01/20

水薙竜「ウィッチクラフトワークス」



対立する「塔」と「工房」、2つの勢力の魔女たちの間で、強大な力を封印された少年とそれを守る少女が暮らす街の物語といえば簡略に過ぎますが、最大の特徴はこの二人の状況に流される/流されぬ、心の交流をユーモアたっぷりに、時に熱く描くことに尽きると思います。

長身でスタイル抜群でチート能力を持つ「姫様」が小さくで無力だけど心の真っ直ぐな少年を守るという逆転構図を物語の起点として置いていますが、そこはあくまでも起点という感じで、原作では二人の相補関係がより有機的になってきつつある感じがします。

漫画は僕のイメージ的に掲載誌・アフタヌーンらしい漫画だと感じます。絵のタッチは柔らかいですが小さなコマにキャラも話も設定も細かく書き込んである様子は「謎の彼女X」以前の植芝理一の漫画みたいだなと。

さてこの漫画、去年の今頃にアニメになっていて、今も「SHIROBAKO」が絶賛放映中の水島努監督が手掛け、優れた映像として完成しています。

漫画は主に謎を追いテンポで読ませる感じの作風ですが、アニメの映像はOP映像から躍動感に優れ、漫画では前後した設定をきちんと過不足なく構成し、しかもクオリティが一定以上に守られているという、原作付アニメのお手本のような作品でした。

アニメを観てから続きに現在連載中の漫画を読むでも全く問題ありませんしね。魔女の配下の無数の使い魔が画面を縦横無尽に埋め尽くすようなCGの使い方もTVとしては非常に豪華な作りで、力量のあるスタッフに映像にしてもらえる漫画の幸せを感じ取れるものです。オタクのための幸せな漫画&アニメ、是非セットでどうぞ。



teamlink_oka at 20:42|PermalinkComments(0)TrackBack(0)漫画 

2015/01/19

山田参助「あれよ星屑」



第二次大戦の敗戦直後、復興が始まったばかりの東京で闇の食堂をやる男と、ようやく復員してくるなり持ち金を全部スられて無一文になった無頼漢。再会した二人は、かつて陸軍において中国大陸を戦った上官と部下だった訳ですが。

生き残った者全てがそれぞれに闇を抱え、明日をも知れず、爆弾は降らなくなっても相変わらず死と隣り合わせ。酒と女が周囲になくなれば思い出すのは戦中の大陸という状況の二人ですが、それでも馬鹿みたいに抜けるように明るい青空みたいというか。

何も持っていないからこそ希望がないからこその人間の関係性、あっけらかんとした精神が物事を綴っていく、そんな風景が綴られています。

第一巻は戦後を、第二巻は回想として戦中の大陸での様子が描かれ、現段階では大陸で二人が決定的な闇を抱えた出来事はまだ描かれていませんが、それでも各エピソードは悲惨極まりないものです。

残酷表現、一般コミックとしては結構挑戦的な性表現、歴史的な表現もおおよそ妥協せずに描いてあり、そのバランス感覚は極めて優れていると思います。漫画それ自体も読みやすく、教条的でも思想的でもなくエンターテイメントとしても優れているんじゃないでしょうか。

歴史をネタとして物語を読んだり描いたりする時に注意しなければならないのは、現代の我々が今必要だからということを理由に、今の常識や道徳で読み直すことを避けること。戦後の闇が消え去ったのではなくて今も僕らの根っこにあるという想像力を再度呼び覚ます、優れたリアリティを持つ漫画じゃなかろうかと思います。

teamlink_oka at 19:25|PermalinkComments(0)TrackBack(0)漫画 

2015/01/17

九井諒子「ダンジョン飯」



ここまでの作品で既に高評価を受けている九井諒子の最新作は、ダンジョンのあらゆるモンスターを狩ってなんとかして食ってやろうというシリーズ物。ファンタジーを一部越境しそうなこれまでの秀作短篇集と変わって、受け入れられやすいRPG的世界と愉快なキャラ達で読者倍増の予感がします。

パーティが全滅しそうになり龍に食われてしまった妹を助けるために、主人公と仲間たちは再びダンジョンの奥を目指します。急がなければ妹ちゃんは消化されてしまう(=復活できない)、でも空腹に負けた失敗だったので立派な食事がいる、準備している時間はない。そこで、魔物を倒して食いながら前進するという現地調達を選ぶ訳です。

魔物による美食を追求するドワーフも仲間に加わって、前進しているのか美味いもの巡りをしているのかよく判らない状況に陥る冒険者たちが笑えます。

食べるものはスライムに歩くきのこから始まって食人植物、バジリスク、動く鎧まで。目指す宿敵であるドラゴンを食べるべく、もとい倒すべくダンジョンを降りていく、と。

深刻な状況にも関わらず可笑しいのが、ゲテモノ食いに熱意を燃やす者と毛嫌いする者の間の差といいますか、他人事さといいますか。そもそも食というものは個人の感覚・生理的欲求として究極の自己満足であるからこそ、皆と分かち合ったり、他人に食を振る舞うことが尊い訳です。

だから、食に(押し付けでない)共感させる想像力を働かせるというのは、ものすごく高度な精神の働きだと思います。作者は優れた観察眼とバランス感覚とファンタジーからくる想像力から、現実に僕らが口に入れる際のイメージすらもリンクさせて楽しませている訳で、まさに傑作といっていいでしょう。求む、速やかな続刊。できれば妹ちゃんをさっさと助けだしてあげて、主人公のゲテモノ食いをどう思うか、はたまた本人もゲテモノ食いなのか…そういう冒険も望みたいです。

teamlink_oka at 19:49|PermalinkComments(0)TrackBack(0)漫画 

2015/01/14

大原まり子「ハイブリッド・チャイルド」 



多分十数年ぶりに再読しました。ラストシーン手前のカタストロフは強く印象に残っていたのですが、それ以外も含め今もかなり新鮮に読める内容だと思います。

人類と機械が長く戦いを繰り広げる宇宙で、人類側は切り札として、どのような状況下にあっても死ななず、周辺のあらゆるものへと変化する力を持つ、核融合の心臓を持つ子供=ハイブリッド・チャイルドを十数体作り戦場に投入するのですが、そのうち一体だけが逃亡してしまい、軍から追われることになります。この一体が主人公なのですが。

最初は「彼」だった物は、哀れな少女の細胞をサンプリングすることでその精神そのものも彼女になってしまい、物語の大半はこの「少女」の冒険と逃亡を描くものとなっています。

あらゆる状況下において無垢な少女の心を基盤に、生物や無生物に変転していくその者は、やがてある惑星に到着し、彼女に決定的な影響を及ぼす人々、そして狂ってしまった偉大なる母=惑星統括のコンピュータに遭遇します。

その惑星は既に滅亡の途に就いていたのですが、少女の行動と運命が決定的な滅びをもたらすことになってしまいます。ブラッド・ミュージックや、新しいもので言えばエヴァンゲリオン旧劇場版のようなものを想像すればよいでしょう。

終焉への有り様も徹底的に表現される一方で、この物語が延々と紡ぐのは母と子の関係。それは決して幸せなものではないのですが、生物として精神として、母子が繰り返し産み、生まれ、殺しては愛するその繰り返しが宇宙そのものと同一化したような世界を見ることが出来ると思います。サイケデリックでグロテスクな美しさといえるのではないでしょうか。

なお、文庫の加藤洋之&後藤啓介のイラストが素晴らしいので、kindle版のイラストは内容をより端的に表してはいるものの、想像力を掻き立てるものではないことを書いておきます。

teamlink_oka at 22:24|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説